真実アイロニー【完結】
一人の人間として。
俺は頷く事も、相槌を打つ事も出来ずに、涙を浮かべた瞳で、彼女の話をじっと聞くことしか出来なかったんだ。
ふふっと微笑みながら、どこか他人事の様に話す彼女はとても儚げで。
触れてしまったら、しゃぼん玉の様に一瞬で割れて消えてしまうんじゃないかって思った。
華奢で雪の様に白く滑る肌が、更にその儚さを際立てていたから。
「こば、やか…」
もう、声なんて出なくて。
涙を零す俺は、嗚咽を漏らしながら顔を隠す様に両手で覆う事しか出来なかった。
そんな俺を何も言わず、ただじっと見つめる小早川。
「……何で泣けるんだろう」
「……」
顔を手で押さえたまま、俺は少しだけ目線を上にする。
微かに視界に映る小早川の顔は、悲しそうでもなくて、苦しそうでもなくて。
「……私は泣けないのにな」
淡々とそう、呟くだけ。