真実アイロニー【完結】


教師のクセに。
大人のクセに。

気の利いた言葉なんて出て来やしない。


小早川はずっと、彼を殺してしまったっていう自責の念から抜け出せずにいるんだ。


大丈夫とか、小早川が悪いわけじゃないとか、そんな軽い言葉。
どうしたら言えるのだろうか。


きっと、こんな言葉。
小早川は求めていない。



「……痛かったな」


小早川の体をそっと離すと、彼女の腕を取る。
自らの手で痛めつけた、その手首。


残った傷痕が、彼女の気持ち全てな気がした。


「……俺は離れないから」



それは本当に、俺の気持ちだった。


この話しを聞いて、誰もが小早川から離れてしまったのなら。


俺は、俺だけは側にいるから。

今までと同じ様に、小早川って声をかけるから。



「別に同情なんていらない」


バッと、掴む手を振りほどくと彼女は俯いたままそう冷たく吐き捨てた。

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