真実アイロニー【完結】
それでも、やっぱり小早川は泣いてなんかいなかった。
無表情で、苦しそうな顔もせずにただ、その瞳に俺を映し出す。
「……」
目の前まで行くと、しゃがみ込み小早川と目線を合わせた。
それから、その手首にゆっくりと手を伸ばす。
触れた瞬間、びくっと小早川の体が反応する。
一瞬、それ以上触れるか戸惑ったが、すぐにその手首を持った。
覆っていた手をどかすと、血が流れ落ちる傷痕をしっかりと見つめる。
幾つもの傷の上に出来た新しい傷。
真っ直ぐな線からは血が浮き上がり、妖しく光っていた。
「……バカだな」
「……」
「痛かったろ」
ポケットに突っ込んであったハンカチを取り出すと、その手首に巻きつける。
血がハンカチにじわっと滲んだ。
「とりあえず、行くぞ」
「……どこに?」
「俺の家」
少しだけ見開かれた目。
色々異論はあるだろう。
だけど、有無を言わせずに俺は彼女の腕を掴むと車まで引っ張って行く。