真実アイロニー【完結】


反抗する事なく、小早川は黙って俺に付いて来た。


助手席の扉を開いて、彼女を中へと入れた。
遠慮がちに乗り込む小早川。


運転席に座ると、小早川がシートベルトしたのを確認する。
その時に視界に入った彼女の手首。

俺のハンカチが巻かれたそれ。



「お腹とかは空いてる?」


微かに首を振って、彼女は答えた。


「そっか。わかった」


それから、自宅に到着するまで俺達は無言だった。
でも、隣に小早川は確かにいて、息をしている。


さっきは傷に全意識が注がれてたから、気付かなかったけど。
小早川、私服だ。


コットン地の薄手のカーデ。
それに細身のブラックパンツ。


シンプルだけど、とても小早川に似合っていた。


強引に家に連れ込もうとしてるけど、大丈夫か。俺。
あのまま置いてくなんて出来なかったし、手当てもしたかったから家しか思い当たらなかった。


傷の手当てしたら家に送ろう。
うん、それで大丈夫だ。多分。



一人で無理矢理納得しながら、俺は自宅の駐車場に車を入れた。
それから、助手席に回ると小早川が降りるのを待った。


「行こうか。ここだから」
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