真実アイロニー【完結】


ゆっくり近付くと、小早川の背中へと声をかける。


「おはよう、小早川」


ピクリと動いた肩。
まだまだ残暑厳しい季節なのに、小早川は長袖を着ている。


それは、傷を隠す為。
煙たがれているのを自覚してるのに、傷まで見られたら何を言われるかわからない。


日焼けとは無縁の真っ白い肌。
相変わらず、無表情の小早川が俺を視界に捉えた。



「おはようございます」

「やっぱりここにいると思った」

「そうですか」



一線を越えたからといって、俺と小早川の距離が近付いたわけじゃない。


ニコリともせずに、俺から視線を外すと小早川はそれを緑の葉が色付く桜の木へと上げた。



「小早川の日課みたいなもんだな。ここに通うのは」

「……」

「でも、俺も日課になりつつあるかな」


そう言ってから、あははって自嘲気味に笑う。


小早川がいるんじゃないかって。
夏休み中も通ってしまってたから。


もちろん、いるわけないんだけど。

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