真実アイロニー【完結】
「どうした?」
顔を覗きこんでそう尋ねる。
だけど、それに返答する事なく小早川は俺に顔を見られない様に横に背けた。
「何かあったら言えよ?
あ、そうそう。時間あったからちょっと調べてみたんだ。
新潟にも桜が綺麗なとこあるんだな。
写真見てたらあまりにも幻想的だから行きたくなっちゃったよ」
「……桜はキライです」
「あ。そう、だった。小早川は桜が嫌いなんだったな。
よく桜の木の下にいるし、よく見てるし、好きだと勘違いしてた」
「……琥珀が好きだったから」
「え?」
ぼそっとそう言った彼女は、やっぱり眉間に皺を寄せたまま琥珀君の事を話す。
過去、俺に琥珀君との出来事を話した時はこんな表情ではなかったのに。
「だから、琥珀が死ぬなら桜が舞う季節がいいって。
桜を見る度に、その時の琥珀を思い出すんです」
「……」
「桜なんてなければよかったのに」
「……」
「そうしたら、今もきっと琥珀と私は」
――――――――笑っていた筈なのに。
そう、続きそうな言葉を飲み込み、小早川は口を噤んだ。