真実アイロニー【完結】
「小早川さん!」
ぴたりと足を止めた彼女は、表情を変えずに俺を見る。
その冷たい視線に怯みそうになるけど、どうにか踏ん張り笑顔で続けた。
「美術の先生が授業の絵画、全く進んでない!って心配してたよ。
どうかした?何かあるなら俺から伝えておくけど」
「……」
「折角出席してるのに、絵を描かないと単位貰えなくなっちゃうよ」
やっぱり無表情の彼女は、俺がそう言うと一度ちらっとこっちを見た。
それだけで、ドキっとしてしまう俺。
目が合っただけでドキっとするとか、中学生かよ。
そんな自分に苦笑する。
俺から視線を逸らした小早川さんはどこか、遠くを見つめながらぽつりと呟く。
「だって、あの人絵を描かないんだもの」
「え」
あの人、って久嶋先生の事?
わけがわからなくて、戸惑っていると小早川さんは俺に鋭い視線を送る。