真実アイロニー【完結】
「小早川さん、ちゃんといたんだ。よかったよかった」
わざとらしく明るい声を出すと、俺は彼女へと近付く。
俺に気付いた小早川さんはこちらに顔を向けると、黙ったままじっと俺を見た。
「ほら、描いちゃうよ。今月いっぱいらしいから」
その視線から逃れる様に、俺はガタガタと音を立てて椅子を準備する。
小早川さんの分と俺の分の椅子を用意して、画材を取り出した。
無言のまま、彼女は俺の用意した椅子に座る。
そんな彼女に手に持っていた画用紙を手渡した。
「はい」
「……」
手渡された画用紙を、受け取ると彼女は鉛筆を手にした。
それから、静かに画用紙に俺を描いて行く。
音のないこの部屋で、彼女と二人。
変な緊張感が俺を包んだ。
時折、こちらを見てはデッサンして行く。
その視線がたまにかち合って、その度に俺の心臓がドキリと跳ねる。
そんな空気をぶち壊したくて、明るい声を出した。