真実アイロニー【完結】


「……先生。
どうして死ねって簡単に言ったり、言わせたりするんだろうね」

「言わせたり?」

「…ああ、これ」



そう言うと、やっと俺を見た彼女は手招きする。
素直に近くに行くと、彼女の手の中にある携帯を俺に見せた。


その液晶に映し出されているのは、どうやら小説らしい。
文字の羅列を目で追いながら、ぼそっと言った。



「小説読むんだ」

「読んでちゃおかしい?先生」

「いや、そんな事はないけど。小説を読むのはいい事だ。
それで?言わせるって何?」

「これ」


画面をゆっくりとスクロールさせると、ある会話文が目に入る。


“死ね”そうやって、登場人物、多分ヒーローにあたる男の子だろう。
その子が主人公に向かって、冷たく言い放っていた。


「……えっと、この男の子は主人公が嫌いとか?」


そう、素直に感じた事を尋ねてみると、彼女はクスクスと笑った。
目を細めて、それはそれは楽しそうに。

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