真実アイロニー【完結】
小早川さんはやっぱり窓の外を見ては、空を眺めている。
今日は生憎の雨模様。
だけど、彼女には関係ないみたいだ。
相変わらずの、立ち姿。
足元には来客用の緑のスリッパ。
「小早川さん」
俺は少し早歩きで近付き、彼女に声をかけた。
小早川さんは顔だけをこちらに向けると、「早乙女先生」と呟く。
美術室で一緒の時間を過ごす内に、彼女は俺の事をちゃんと呼んでくれる様になった。
それに返事もしてくれる様にもなった。
「また空を見てたの?」
「うん。桜散っちゃったなって思って」
「そういえば、嫌いだって言ってたよね」
「ハイ、嫌いですよ」
「どうして?」
「この時期になると思い出すから」
……何を?
そう、返しそうになって俺は口を噤んだ。
だけど、小早川さんにはお見通しらしい。
俺の顔を見て、その双眸を細める。
「知りたいって顔に書いてありますよ」
「えっ」