生意気な彼女
「ここなら大丈夫かも」
できるだけ人目のつかない場所に、と連れてきてくれた場所。
大通りを抜けて、セレクトショップやヘアサロンなどが並ぶ裏通り。
その一角で、わたしを、壁を背にするように立たせたヨウジくん。
「ちょっとだけ、我慢してね」
と言うと、泣いているわたしの姿を隠すように左手を壁においた。
ぼんやりと滲む、目の前の黒いマフラー。
ついさきほどの出来事が思い出される。
わたしは。
わたしは、なんてバカなことを言ってしまったんだろう。
『わたしと、キス、……してください』
なんて。
今ごろになって、後悔するの。
もう、今までのように顔を合わせることができない。
そんな言葉を口にしてしまった。
「……ごめ、…なさ、い」
変なこと言って、ごめんなさい。
困らせてしまって、ごめんなさい。