生意気な彼女
「彼女に見られたら、ヤバいよね?」
信号が赤に変わる。
立ち止まった私は、ヨウジくんの顔色を伺うように視線を左斜め上に向けた。
『私と一緒に歩いて』
ヨウジくんにした、くだらないお願い。
新しい靴で、上手に歩ける自信がなかった。
ヒールの高い靴を履いても、見上げることのできるひとは、ヨウジくん以外、思い浮かばなかった。
「えー?大丈夫じゃない?」
ヨウジくんは少し上を向いて、フッと息を吐き出した。
「あれ?あれれ?」
「んー?なに?」
「彼女と、ヤバいの?」
私がそう聞くと、ヨウジくんは、はははと笑うだけだった。
「ふぅん。そっかー、そうなんだ。
じゃあさ、泣きたくなったときは、私を呼んでくれていいからね」
いたずらっぽくヨウジくんの腕に自分の腕を絡めると、ヨウジくんは少し困ったような表情を見せたあと、
「泣きたくなったとき、……ねぇ」
と言って空に向かって息を吐き出した。