初恋lovers
夫、安藤孝とは、上司の勧めるお見合いで知り合った。
戦後生まれ、団塊の世代と呼ばれる年齢にしては、夫は随分と背が高い。
……こんなに背が高くて、鴨居にぶつけたりしないのかしら。初めて会った上司の家で、首が痛くなるほど見上げていた。
デートなんてしたことないまま、成人式以来4年ぶりの振り袖に身を包んだ。真正面に男性が座り、まともに息もできないほど緊張していた。
そんな気持ちが相手にも伝わったのか、終始無言のまま見合いは終わった。
高校卒業後、船場の問屋で経理に営業事務にと雑務をこなしている。
ようやくコツを掴んできたが、仕事が重なると目の前の作業に没頭しすぎて、訪ねてきた得意先にさえ気付かないほどだ。
そんな私に、世話好きの上司がお見合いを持ってきたけれど、あの日以降、先方からは何の音沙汰も無かった。
……ご縁がなかったのね。
あの日を思い返し、何度目かのため息をつく。
風通しを終えた着物をたとう紙に包んでいると、思いがけない知らせが届いた。
「先方が、また会いたいそうだ」
「本当に?」
待ち望んでいたはずなのに、上司の言葉が信じられず、思わずそう呟いていた。
これまで容姿を褒められたことのない十把一絡げの私。
見合いの場で気の利いた話をすることもできず、金魚みたいにぱくぱくと口呼吸をする私と、一文字に口を結んだままの先方。こんな見合いの一体どこを気に入ったというのだろう。
きっと仕事の付き合い上、断りきれなかったに違いない。
嫌だったら、さっさと断ってくれたら良かったのに。
照れくささと、相手の本心が読めず、再会を素直に喜ぶことはできなかった。