私の好きな人。
「こーゆー仕事してると俺はいないも同然だと思われてるから。いろんな話が聞こえてくるんだよ」
「……私は、坂崎さんがいないも同然だなんて思ったことありません!」

どうして伝わらないの?
本気だって分かってくれないの?

どうしてか分からない程に好きなのに。
どうしたら伝わるのか全く分からない。

どうしたら、私を見てくれるの?

哀しいとか悔しいとか……色々な気持ちで訳が分からなくなった私は坂崎さんに背を向けた。

「なあ」

走り去ろうとしたのに、彼の声ひとつで足を止めてしまう。

「嫌なら嫌ってハッキリ言えよ?」
「分かってます!」

分かってる。
好きなのは私だけだって……
坂崎さんが『行くな』なんて言ってくれないってことは分かってる。

でも坂崎さん。私は貴方が好きなんです。

鬼課長がいなくなったのをいいことに、一人トイレの個室で声を殺し涙が引くまでの僅かな時間仕事をさぼる事にした。
小さく降り出した雨の音が聞こえていた。
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