瞳をそらさないで
瞳をそらさないで
 今日の昼休みも、社内食堂で渋谷(しぶたに)の姿を見つけた。
 女の子の視線を集めている彼の姿を横目で見ながら、離れた席にランチセットの乗ったトレイを置く。
 そのわたしの横に並んで座ると、ふいに同期のカナが顔を寄せて耳打ちしてきた。

「ねえ、ヨーコさん。あそこにいる営業部の渋谷さんなんだけれど。――ときどき、あたしたちを見ている気がしない?」
「え? そう?」

 わたしは、興味のないふりをしながら、彼の姿からカナのほうへ視線を移す。
 それから、気のないような返事をした。

「そうね。もし、彼がわたしを見ているのなら、きっと身長のせいよ。カナを見ているのなら、それはカナが可愛いからだわ」

 そう口にしたわたしの身長は、175センチ。モデルならいいのだろうけれど、一般人には少々高すぎる気がする。
 カナにそう告げたわたしは、少しでも小さく見えるように頭をさげてうつむいていた。これは、わたしの学生時代からのクセだ。

 いつも一緒にいるカナは、そんな他人のクセを、とくに気にしていないらしい。
 わたしの素直な言葉をおだてと受け取ったのか、彼女は照れながら言葉を続けた。

「ねえ、ヨーコさん。ヨーコさんからみて、渋谷さんみたいな男性は好みかな? どう思う?」

 彼女は、どうやら渋谷が気になるようだ。

< 1 / 9 >

この作品をシェア

pagetop