キミノ、テ。
第一章 日下透[クサカ トオル]
その日は、雨の降る金曜日の夜だった。
仕事帰りのサラリーマン。
仲良く傘に入るカップル。
これから仕事であろう若い女性。
雨に打たれながら急いで帰る学生。
重い荷物を抱え、ゆっくりと歩くお年寄り。
誰もが自分の時間を生きていて、
当たり前に過ごしている。
けれど、その時間に満足を得ている人間というのは、
この広い世界に生きている多くの人のなかで、
ほんの一握りしか居ないであろうと僕は思う。
そしてまた、その満足を得ている一握りに入れるはずのない僕は、
何にというわけではなく、ただ、なぜかいつもいつも不満を抱いているのだ。