幸せだって、笑ってよ。
「ごめん。」



やっと心の声が聞こえたのに、石田君は腕を解くと、私と目も合わさずに立ち去った。

だから、その出来事は忘れることにした。



なぜなら、次の日から彼は、またいつも通りに接してくれたから。

同期の仲間である石田君と夫の関係を、安易に崩しちゃいけないと思ったから。



気付いてしまった石田君への気持ちを、その日からずっと、私は封印して来た。

時にはそれが辛くてたまらないこともあったけど、退社してしてからは思い出す機会もなかった。

叶わなかった恋の思い出として、胸にしまっておいたはずだった。



その封印を解いたのは彼のメール。

そして、久しぶりに目にした彼は、若々しさを残したまま。

ううん、年を重ね、益々、イイ男になった気がする。
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