幸せだって、笑ってよ。
でも、肝心の彼はと言えば、はるか遠くの席に座ったまま。

彼の周りにいるのは私の知らない人ばかりだし、自分から話しかけるなんて絶対無理。

時折、視線を感じるけど、広い座敷の中にはすごい人数の出席者がいる。

視線の主が彼かどうかも判断できない。



「そう言えば、うちらの同期で結婚してないのって、石田だけになっちゃったな。」

「あ、そうだぁ。」

「モテるのに不思議だよね。」

「選び放題だから、決められないとか?」

「うわ、何とも羨ましい限りだね。」



確かに彼は、同期の中でも飛び抜けたイケメンだった。

見た目だけじゃなく、適度にやんちゃで、仕事ぶりも豪快。

おまけに女子の扱いも上手だから、彼に熱を上げている子も多かった。



かく言う私も、入社当時は彼に惹かれていた。

だけど、その気持ちが本物かどうか迷っている時期に、もう一人、私の心に入り込んで来る存在がいた。

それが今の夫だ。
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