姉の身代わりでも
彼の気持ち
「えっ……桜井さんは?」
思わずその名前を出せば、はぁ? と怪訝そうな顔をされた。
「だって……2人でジュエリーショップのデート……」
消え入りそうな声で口にすれば、仁史はばつが悪そうな顔をしてコートからひとつの小箱を取り出す。赤いビロード製のそれを見た瞬間、まさかと思いながら心臓が跳ねた。
「やっと4月に主任への昇格が内定した。彼女と出掛けたのはこれを選びたかったからなんだ。彼女はサイズが同じだったから……手を繋いだのは、彼女がヒールで転んだからだし。誤解をさせて済まなかった」
仁史が器用に片手で開けた小箱には、白金色に輝く指輪があった。
「麻由も知ってる通り、俺の初恋は瞳さんだったよ。
だけど彼女が亡くなってから、ずっとおまえがいてくれた。いつの間にか側にいてくれるのが当たり前になって、何も言わなかったけど。待たせてごめん。
望まないならと連絡先交換もデートもしなかったのに、瞳さんのふりをしてまで君が支えてくれたから今の俺がいるんだ。けど、俺はやっぱり今の君がいい。
麻由……こんな俺だけど、結婚して一生そばにいてくれますか?」