姉の身代わりでも
姉の身代わり
冷蔵庫に入ってた食材を頭の中で思い返し、足りない材料をスーパーで購入して仁史のアパートに向かう。おばさんから預かってる合鍵で室内に入り電気を点けると、物があまり置かれてない部屋が照らし出された。
10年前仁史は中学を出ると、東京の全寮制の高校に入りそのままW大に進学した。大学を出たら地元に戻って就職したけど、何の皮肉か私と同じ会社に勤め出したんだよね。
仁史が実家に戻らない理由は知ってる。
私のお姉ちゃんである瞳(ひとみ)が、好きだったから。思い出があり過ぎるそこにいるのが辛くなったんだ。
仁史は必死に隠していたけど、私には解っちゃったんだ。だって……仁史を好きだったから。彼が、姉を見るときのはにかんだ笑顔や、熱の籠った切なげな視線に。私と同じ感情を見たから。
(だから……私は決めたんだ。仁史を支える為に、お姉ちゃんの代わりになろうって)
それがどんなに辛いことでも、好きな人のためならって。10年間頑張ってきた。
たとえ仁史が他の人と幸せになるとしても。彼がまた心の底から笑える日が来るようにと願って。