姉の身代わりでも
たとえ身代わりでも
深夜の0時近く。やっとドアを開く音がして、玄関で仁史を迎えた。
「お帰りなさい……お酒、飲んでるよね? しじみのお味噌汁作ってるから温めるね」
11月も終わりの深夜だから、コートはすっかり冷たい。仁史もきっと体が冷えているだろうから、コートをハンガーにかけながら彼を見ないで声をかけた。
「体、冷えただろうからお風呂に入って暖まって。今の時期に風邪引いちゃ駄目だもんね」
「ああ」
その時、返事があってホッとした。何の反応もない時があるから今日はまだマシだ。
彼がお風呂を上がるタイミングを計算して、ちょうどいいようにとお味噌汁を温め直す。後はご飯と、里芋の煮物に大根の漬物。
仁史は飲んだ後に塩味が欲しくなるみたいだから、ちょっぴり味を濃くしてある。しじみは肝臓を考えて。
お風呂あがりに黙々と私の手作り料理を口にする仁史を見てるだけで幸せを感じる。だけど、その後は何よりも辛い時間が待っていた。
「ひとみ……」
酔ったせいか私を姉と間違った仁史に、その名前を呼ばれながら抱かれる時間が。
苦しくて痛くて、それなのに甘くて残酷な――とても脆い幸せだった。