オレ様専務を24時間 護衛する Ⅱ
彼女は無言でヘラを差し出す。
仕方なく、俺はそれを渋々受け取った。
既に生地は彼女が流し入れてくれたから
俺は返すところからすればいいのだろうが……。
「コツは?」
「躊躇せずに豪快に」
「マジで?」
「はい」
俺の手元をじっと見据え、
彼女は物凄く楽しそうにしている。
フフッ、こういうのも乙なもんだな。
お互いに作り合って食べるというのも……。
「行くぞ?」
「はい、お願いします」
俺は一呼吸してから、ヘラで生地をひっくり返した。
端の部分が少し崩れたが、初めてにしては上出来だろ。
「京夜様って、なんでもそつなくこなせて狡いです」
「は?」
「私に花を持たせるって事をしないんですもん」
「フッ、花を持ちたかったのか?」
「たまには、私にだって花を持たせて下さいよ」
プクッと膨れた彼女。
料理は自分のテリトリーだと思っているのだろう。
そんな彼女に俺は……―――……
「では、お注ぎしますよ?」
「ッ!!お願いしますっ!!」
今日購入したお揃いのぐい呑み。
彼女好みの甘めの日本酒をチョイスし、
俺は彼女のぐい呑みにゆっくりとそれを注いだ。
「お家デートもいいものですね」
「そうだな」
こんな風に過ごす事も贅沢に思えた。