オレ様専務を24時間 護衛する Ⅱ
行きつけの料亭『風月』で夕食を摂る事に。
向かい合わせで座り、女将が淹れるお茶を口にすると、
メニューに無い“料理長お任せ”の料理が次々と運ばれて来た。
色とりどりの旬の食材が並び、食欲をそそる香りを纏い、白い湯気が姿を見せる。
「ごゆるりと…」
女将の仕草一つ一つが上品で、いつ訪れても心地よくしてくれる。
私が今一番目指したい姿が此処にあった。
深々とお辞儀し、部屋を後にする女将に視線を奪われてると。
「希和?」
「あっ、はい!」
「冷めるぞ?」
「はい、戴きます」
薄焼き玉子が破れずに綺麗に出来たような。
くすんでたシャツが真っ白に洗い上がったような。
アイラインが1度で綺麗に描けたような。
長年行方知れずのピースが見つかり、
漸くパズルがピタッと嵌ったような、そんな気がした。
そうよ、そうなんだわ。
御影が世界に名高い名家であるからと言って、
ハリウッドスターのような振る舞いをしなければならない訳じゃないんだわ。
私が主役なのではなく、あくまでも主役は京夜様なんだから。
私は華に添える葉に徹すればいいだけの事よ。
「京夜様、ふきのとうの天ぷら、美味しいですね」
心の枷が漸く外れた瞬間だった。