オレ様専務を24時間 護衛する Ⅱ
10 愛の盾
京夜side
あっという間に結婚式を間近に控え、御影百貨店は夏商戦に追われていた。
毎日目まぐるしく仕事をこなし、
最近は御影ホールディングス(百貨店を含むグループの本社)の経営も任されるようになっていた。
父親は新しい事業を始めるにあたって、
提携先(海外)の本社へ出向く日々が続き、
俺はますます忙しくなっていた。
「京夜様、来週行われる竣工式の式次第が届きました」
「ん、後で見る」
「当日のお衣装ですが、私の方で準備しておきました」
「ん、………悪いな」
「いえ」
今までなら新調するスーツにしたって、
本店に出向くか、会社や自宅に呼んで決めていたのだが、
今はそれさえも時間が惜しい。
希和は俺の事を誰よりも知っている。
仕事の上でもプライベートでも。
俺が指示する前にいつだってこなしてくれて。
今の俺にとって、なくてはならない人物だ。
書類の山に囲まれ、ひたすらパソコンと格闘している俺の脇に
そっと静かに珈琲の入ったカップを置き、
何事も無かったかのように踵を返し部屋を後にする希和。
無駄な会話さえも省いてくれるその心遣いに頭が上がらない。
自宅にも仕事を持ち帰り、食事の時以外書斎に籠りっきりの俺に
一度も愚痴や文句を言った事がない。
いや、違う。
俺が少しでもスムーズに決済出来るように
事前に稟議書をチェックして、修正箇所が無いか、
毎日神経をすり減らしている事を俺は知っている。
そんな心遣いにさえ、感謝の言葉一つ掛ける事さえ忘れてしまって……。
ふと、彼女が淹れてくれた珈琲を口にして
改めて彼女の存在がどれほど大事なのか、思い知らされていた。