オレ様専務を24時間 護衛する Ⅱ


15分ほどすると、ストレッチャーに横たわった彼女が姿を現した。

だが、何本もの管が繋がれ、酸素用のマスクが付けられた姿を目にした時は、胸が締め付けられた。


「希和っ……」

「まだ麻酔が効いてますので……。今夜はICU(集中治療室)にて術後の経過を診させて頂きます。何も問題なければ、明日一般病棟へ移れますので」


駆け寄った彼女の母親は、何度も彼女の頭を撫でて。

彼女の父親はそんな母親を優しく支える。


俺はそんなご両親と彼女を見守るしか出来なかった。

手術室の前で手術が終わるのを待っている間、母親に釘を刺されていた。


『希和さんはまだ、あなたの妻じゃないのだから……』


分かっている、そんな事………言われなくても。

入籍をまだ済ませていないのだから、手術の同意書にサインする事すら出来ないことを。

分かっている、俺はまだ家族じゃないということも。

婚約したとはいえ、戸籍上では赤の他人。

分かっている、念を押されなくても、それくらいの常識。


毎日24時間一緒にいたって、俺には何の権利もないことくらい。


こんなことになるなら、もっと早くに籍を入れておくんだった。

後悔しても遅いのに。

俺はいつだって後悔してる。

本当に愚か者だ。




ICUに移動した後、医師からの説明があった。

勿論、俺に真っ先に聞ける権利はない。

彼女のご両親が受けた説明を話してもらうほか術はない。

『家族』

今の俺にとって、とてつもなく尊い言葉だった。


1時間ほどすると、数分の面会が許可された。

けれど、入室出来るのは………2人ずつ。


他の患者も含め、負担をかけない為の処置だからと言われれば、従うほかない。

俺はまたしても、屈辱と不甲斐なさで胸が張り裂けそうだった。


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