オレ様専務を24時間 護衛する Ⅱ
思わず、ギュッと握り返すと、それに反応するように再び指先が動く。
「希和、…………俺が誰か分かるか?」
彼女の手を優しく包み込むように握りしめ、耳元に囁く。
すると、俺の声に反応するようにゆっくりと。
眠りの封印が解けるかのように、徐々に瞼が押し上げられた。
「希和……」
視線が浮遊する彼女にそっと声を掛けると、
その声の主を探し求めるように、自然と視線が絡まった。
「ありがとうな、…………希和」
俺を捉えた彼女は、安堵したような優しい笑みを浮かべた。
そんな彼女の髪を撫でる。
すると、俺の手をじっと見つめ驚いた表情をしたかと思えば、
少女のように瞳をキラキラと輝かせた。
そして―――――。
「きっ………ょうや………さま」
三日ぶりに聞いた彼女の声は、少し枯れていて。
だけど、声が聴けただけで、俺の胸は満たされた。
「…………ん?」
そっと彼女の顔を覗き込むように近づけると、
点滴の管が固定されている手が、俺の手に重なった。
そしてその手は、ゆっくりと彼女の口元へと運ばれ……。
「いい…………香り」
「……………ッ!!」
希和がいう『いい香り』とは、きっと『菴羅妃殿下』の香りの事だ。
俺の手にたっぷりと乗せたのだから。
もしかして、大好きなマンゴーの香りが、深い眠りから覚める鍵だったって訳か?
フッ。
さすが、『菴羅妃殿下』
只者じゃないとは思ってたが、これほどまでに威力を発揮するとは。
すぐさまうちで、独占販売の契約をしないとな。
そんな事を考えながら、俺はサイドテーブルの上に置いた『菴羅妃殿下』を彼女に見せた。
「犯人は、こいつだ」
彼女はボトルに貼られたシールを目にして、フフッと鼻で笑った。
その後、俺からの知らせを受けた彼女の両親と俺の両親も合流し、
三日ぶりに心の底から倖せを噛み締めた時間を過ごした。