オレ様専務を24時間 護衛する Ⅱ


もっと優しい言葉を掛ければいいものを

照れくさくてぶっきらぼうな言葉遣いになってしまった。

後悔の貯金がまた1つ増えてしまったことに辟易しながら、

俺もグラスに口を付けると、

キラッキラの瞳で俺を見つめている。


「うっ……」


思わず吹き出しそうになってしまった。

グビッと喉を鳴らしながら流し込み、親指で口元を拭う。


「何だ、どうかしたか?」


本当は『何だ、その眼は』と言いたいところだが、

彼女が何を思っているかぐらい、俺にも分かる。

あからさまに優しくしたらキザ過ぎると思って、

ドリンク類ならいつもの延長線上で多少なりともカモフラージュ出来たかと思ったんだが。


「『愛』の力って、凄いですね~♡」

「ッ?!………何のことだ」

「ウフフッ、ホント可愛いんだからっ、京夜様って♪」

「馬鹿にしてんのか?」

「いいえ、全っ然!!嬉し過ぎて、キュン死しそうです」

「フッ、そんな簡単に死なれたら困る」


俺の考えなんてお見通しのようだ。


「『愛』の力ですよね?」

「だから、何のことなんだか……」

「愛してないんですか?」

「は?」

「だ・か・ら、『愛』……してないんですか?」


相変わらずキラッキラの瞳で俺をじっと見つめている。

俺の考えがお見通しなように、彼女の考えていることくらい俺にだって分かる。

俺に言わせたいんだろう、アノ言葉を。

だが、俺は超が付くほどの天邪鬼だっていうことを忘れてるのか?

俺がそんな簡単に口走るタイプじゃないってことを。


俺は再びグラスに口を付けて飲み干すと、無言で立ち上がる。


「フッ、愚問だ」


彼女が驚き残念そうな表情を覗かせたが、

そんな様子を愉しむように俺はキッチンへと向かった。


希和が大怪我をして悟ったことがある。

出来ることを出し惜しんで後悔しないように

どんなことでも気が付いた時にすぐさま行動に移すこと。

『愛している』という言葉を口にすることは容易い。

だからこそ、安売りはしたくない。

言わせられるのではなく、自然と口から溢れてしまう時まで

大事に大事にしておきたい。


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