オレ様専務を24時間 護衛する Ⅱ


退院祝いをしたいところだが、

傷に障ってしまうため、希和は飲酒出来ないし。

そんな彼女の目の前で飲むわけにもいかない。

それどころか、彼女が倒れてからというもの、飲むことすら忘れていた。

最近は晩酌せずとも普通に過ごせているし、

酒の力で抑えきれぬ感情をうやむやにしたいとも思わない。

彼女が辛い思いをしているのに、

俺だけが楽になるなんて赦されるはずもない。


久々の日常に無意識に緊張しているのか、喉が渇く。

俺は、冷蔵庫から取り出したミネラルウォーターを口にすると。


「んッ?!」


突然背後から彼女が抱きついて来た。

思わず吹き出しそうになった俺は、

ボトルをキッチン台に置き、彼女の腕を軽くタップする。

すると、緩やかに解かれる彼女の腕をそっと掴んで踵を返し、


「襲う気か?」

「フフッ、そのつもりです。………ダメですか?」


何だ、その瞳は。

珍しくおねだりモードの表情(かお)だ。

彼女は滅多なことじゃない限り、我が儘を言ったりしない。

俺としてみれば、毎日言われたって苦じゃないし、

それこそ、毎日俺を困らせて欲しいくらいだ。

希和はいつだって優等生で。

いつでも俺のことを最優先に考え、行動する。

今回の襲撃事件だってそうだ。

彼女のことだから、本当は犯人を取り押さえることだって出来ただろう。

だけど、それではマスコミの餌食になると思い、

敢えて何事も無いように振舞ったに違いない。

実際、革製のビスチェのようなものをワンピースの下に着ていたらしい。

だが、犯人が狙った場所は胸部でなく、脚の付け根に近い下腹部だった。

痛みに耐えることなく声を上げてくれればどんなによかったか。

マスコミの餌食になることなんて、

希和が負傷することに比べたら、どうでもいいことだ。

希和と視線が交わり、胸の奥から遣る瀬無さが込み上げて来る。

少しばかり挑戦的な表情は、俺を試そうとしてのるか?

それとも、俺が何て答えるのかを聞きたいのだろうか。

どちらにせよ、俺にしてみれば嬉しい悲鳴。


俺は彼女の後頭部に手を回し、ゆっくりと顔を近づけた。


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