オレ様専務を24時間 護衛する Ⅱ


「好きにしろ」


彼女の耳元にそっと囁く。

希和は俺がキスをすると思ったらしく、

俺の言葉に肩をビクッと震わせ、

俺の声に反応するように顔を横に向けた、次の瞬間。

ッ?!

唇に柔らかい感触が。

彼女は慌てて俺から離れようと。

そんな彼女の腰を抱き寄せ、悪魔心が顔を覗かせる。


「俺を襲うんじゃなかったのか?」

「う゛っ……」


さっきの威勢はどこへやら。

顔を上気させ、仰け反るように背を反らせた、その時。

俺は見逃さなかった。


「すまない。………大丈夫か?」

「っ………、はい、平気です」


体を反らせたことで、傷口に障ったようだ。

嬉し恥ずかしいような表情を浮かべた彼女が、

一瞬で苦痛に耐える表情をしたんだ。

そんな彼女の体をしっかりと抱きしめ、

呼吸が整うように背中を摩る。

俺に出来ることなんて、本当にこれくらいしかない。

今まで何不自由なく生活した来た俺だが、

今の俺は、本当に無力で。

彼女の苦痛を取り除くことすら出来ない。


深呼吸した彼女がゆっくりと顔を上げた。

何事もなかったかのような表情で俺の両肩に手を置き、

背伸びをしたかと思えば、

小悪魔の顔をちらつかせ、俺の唇を奪いやがった。


「フフッ、ご馳走様ですっ!」

「なっ……」

「これはまだ序の口ですからね!」

「ッ!?」

「覚悟して下さいね~♪」


希和は余裕の笑みを浮かべ、値踏みするように人差し指を上下させた。


「フッ、上等だ。いつでもかかって来い」

「いいんですかぁ?そんなこと言って」

「何がだ?」

「死にかけた人の覚悟ってものが分かってらっしゃらない」

「はぁ?」

「三途の川を渡りかけた私にとって、もう怖いものなんてないですから」

「フッ」

「笑ってられるのも、今のうちですよ~?」

「おかしいな。負傷したのは腹部だよな?倒れる前に俺が支えたはずなのに、頭をどこかで打ったか?」


挑発するような言葉を口にする彼女じゃなかったのに。

何がどうしたらこうなるんだ?

目の前の彼女はまるで別人のように見える。


< 357 / 456 >

この作品をシェア

pagetop