オレ様専務を24時間 護衛する Ⅱ


「そろそろ湯張りが終わる頃ですから、お風呂をどうぞ」

「フッ、相変わらず手際がいいな」

「これ以外に取り柄が無いですから」


自嘲気味に笑う希和。

取り柄が無いのは俺の方だ。

希和はいつだって慎ましく、決して偉ぶったりしない。

シャワー後の傷口の手当てだって大変だろうに、

俺の風呂の手配まで済ませていただなんて。

本当に頭が上がらない。


「片付けはしたから、テレビでも観て、ゆっくりしてろ」

「ありがとうございます!でも、食材の在庫確認だけさせて下さい」

「………ん、程々にしろよ?」

「はぁ~い」


希和はカーディガンの袖を捲り、嬉しそうにキッチンへと向かった。


「サッと浴びて来るか」


無意識に独り言を呟きながら自室へと向かい、部屋のドアを開けると。

ん?

ベッドメイクされている事にはさほど驚きはしないが、

ベッドの上に見慣れぬ服が置かれていた。


「あっ」


思わず口から声が漏れ出す。

ベッドの上に置かれていたのは、

風呂上がりに希和が着ていたパジャマとお揃いのもの。

確かこれは、ハネムーン先で着るためにキャリーケースに彼女が用意しておいたもの。

そう言えば、執事の吉沢が空港からキャリーを届けてくれてたな。

希和のことがあったから、すっかり忘れていた。

彼女のことだから、部屋の片隅においてあったキャリーに気が付いたんだろう。

希和がどんな思いでこれに触れたか、容易に想像できる。

俺は遣る瀬無さに駆られながら、着ている服を脱ぎ始めた。

浴室のドアを開けると、ミントの香りがフワッと香った。

普段は鉢植えの観葉植物が置かれているくり抜き棚に

ミントのリードディフューザーが置かれている。

俺がハーブ系の香りが好きなことも知っている彼女なりの気遣いだろう。

俺は、彼女の為に何かしただろうか?

よくよく考えても、彼女の気遣いに比べたら皆無に等しい。

改めて自分の存在の小ささに気付かされた。


洗い終えた俺は、浴室の壁に片手をついて、少し熱めのシャワーを頭から浴びる。

自責の念に駆られながら、これからは『彼女最優先に行動しよう』と心に誓った、その時。


< 358 / 456 >

この作品をシェア

pagetop