オレ様専務を24時間 護衛する Ⅱ
「そろそろ湯張りが終わる頃ですから、お風呂をどうぞ」
「フッ、相変わらず手際がいいな」
「これ以外に取り柄が無いですから」
自嘲気味に笑う希和。
取り柄が無いのは俺の方だ。
希和はいつだって慎ましく、決して偉ぶったりしない。
シャワー後の傷口の手当てだって大変だろうに、
俺の風呂の手配まで済ませていただなんて。
本当に頭が上がらない。
「片付けはしたから、テレビでも観て、ゆっくりしてろ」
「ありがとうございます!でも、食材の在庫確認だけさせて下さい」
「………ん、程々にしろよ?」
「はぁ~い」
希和はカーディガンの袖を捲り、嬉しそうにキッチンへと向かった。
「サッと浴びて来るか」
無意識に独り言を呟きながら自室へと向かい、部屋のドアを開けると。
ん?
ベッドメイクされている事にはさほど驚きはしないが、
ベッドの上に見慣れぬ服が置かれていた。
「あっ」
思わず口から声が漏れ出す。
ベッドの上に置かれていたのは、
風呂上がりに希和が着ていたパジャマとお揃いのもの。
確かこれは、ハネムーン先で着るためにキャリーケースに彼女が用意しておいたもの。
そう言えば、執事の吉沢が空港からキャリーを届けてくれてたな。
希和のことがあったから、すっかり忘れていた。
彼女のことだから、部屋の片隅においてあったキャリーに気が付いたんだろう。
希和がどんな思いでこれに触れたか、容易に想像できる。
俺は遣る瀬無さに駆られながら、着ている服を脱ぎ始めた。
浴室のドアを開けると、ミントの香りがフワッと香った。
普段は鉢植えの観葉植物が置かれているくり抜き棚に
ミントのリードディフューザーが置かれている。
俺がハーブ系の香りが好きなことも知っている彼女なりの気遣いだろう。
俺は、彼女の為に何かしただろうか?
よくよく考えても、彼女の気遣いに比べたら皆無に等しい。
改めて自分の存在の小ささに気付かされた。
洗い終えた俺は、浴室の壁に片手をついて、少し熱めのシャワーを頭から浴びる。
自責の念に駆られながら、これからは『彼女最優先に行動しよう』と心に誓った、その時。