オレ様専務を24時間 護衛する Ⅱ
カチャッと浴室のドアが開いた音がした。
予想だにしない展開に、俺の体は金縛りにあったかのようにピクリとも動かない。
スーッと涼しい風が肌を撫でる。
俺は微動だにせずにゴクリと生唾を飲み込んだ。
「お背中、流しましょうか?」
やはり、彼女だ。
完璧なセキュリティーを誇るこのマンションに、
侵入者がいるとも思えないが、それでもちらつかないわけじゃない。
だがやはり、彼女以外あり得ない展開だよな。
「いや、もう済んでる」
「そうなんですか?それは、残念」
今までの彼女なら、俺の半裸を目の当たりにしただけで赤面し、
物凄い速さで体を反転させ、一目散に逃げて行ってたのに。
自ら乗り込んで来るとは……。
しかも、声色からして、挙動不審な感じはしない。
俺の全裸(後ろ部分だけだが)を見ても、何とも感じないのだろうか?
俺の方が緊張でどうにかなりそうだ。
別に裸を見られたからってどうってことないが、
不意を衝かれたお陰で、動揺が半端ない。
いざ覚悟を決め、振り返ろうとすると、
「では、ごゆっくり」
スッと気配が遠のき、ドアが閉まる音がした。
シャワーを止めることすら出来ず、呆然と立ち尽くしている俺は、
何事が起きたのか、数秒フリーズしてしまった。
漸くシャワーを止め、髪の水気を払い、何事も無かったかのように湯船に浸かる。
別におかしなことじゃない。
それこそ、一緒に風呂に入る奴らだってごまんといる。
婚約した上、同棲していて、
本来なら今頃、新婚旅行真っただ中なわけだから。
それを考えたら、全然あり得る展開なわけで……。
ただ、腑に落ちないのは、先を越された感?
プライド?
いや、そうじゃない。
緊張の色も見せず、堂々と振舞っていたことだ。
しかも、それを行動に移したのが、この俺じゃなく彼女だってことだ。
そう言えば、言ってたな。
『三途の川を渡りかけた私にとって、もう怖いものなんてない』と。
フッ、面白い。
俺の正常心を試すとはいい度胸してる。
さて、どうしてやろうか……。