オレ様専務を24時間 護衛する Ⅱ
キッチンに舞い戻った私は、メモしたリストを用紙に纏め発注した。
本当はマイバッグ片手にスーパーに買い物に行きたいところだけど、
事件のこともあって、暫くは散歩も控えないとならない。
普通が普通でない家に嫁ぐのだから、
ある程度のことは我慢するのも仕方がない。
それこそ、私が考えている以上に大変だと思うから、
今から弱音なんて吐いてられない。
パントリーの扉を閉めた、次の瞬間。
ミントの香りを纏った長い腕に包まれた。
「もう終わったか?」
「………はい」
「じゃあ、まったりするぞ」
「へ?」
京夜様の言葉に驚いた私は、彼の手に引かれるままに歩いていく。
彼はカウンターの上に予め出しておいたミネラルウォーターのボトルを2つ手にして、
何だか楽しそうに軽やかな足取りでリビングを抜けた。
どこへ行くのだろうか?
向かう先にはトレーニングルームと、彼の書斎。
それと、シアタールームが。
あっ、もしかして、映画でも観るとか?
このマンションに住むようになって1年余り。
だけど、一度もシアタールームで映画を観たことがない。
仕事が忙しくて、そんな余裕が無かっただけだけど。
彼が言う『まったり』が何となく分かった気がして、胸がドキドキして来た。
無意識に笑みが零れかけた、その時。
シアタールームのドアの前を無言で素通りし、無意識に立ち止まってしまった。
「ん?………どうかしたか?」
「あ、いや、あの、えぇっと……」
ここじゃないんですか?と尋ねようと視線を泳がせると、
京夜様はますます楽しそうにしながら、私の手を手繰り寄せた。
「ここじゃないから」
心の声が通じたようだ。
優しい笑みを浮かべながら、彼は私の腰に腕を回して来た。
戸惑いながらもリードされるがままに歩いて行くと、
トレーニングルームの奥にあるドアの前で足を止めた。