オレ様専務を24時間 護衛する Ⅱ


ミントの香りを纏った長い腕が肩先に。


「少し横になったらどうだ?」

「はい?」


スクリーンから視線を横に向けた、次の瞬間。

視界が緩やかに上昇し始めた。

停止した時には、私の頭は隣に座る彼の膝の上。


「少し強引にして悪い。傷が痛むか?」

「あ、いえ………、大丈夫です」


本当は鋭い痛みが一瞬した。

だけど、本当に一瞬だけ。

だから、なんてことない。

出来る限り腹圧を掛けずにゆったりとした動作を心掛けている為、

急な動きに対応しきれない今の体。

さすがに痛みを伴えば、制御反応を示すのも必至。

我慢できないことはない。

痛みなど、精神的苦痛に比べれば、本当に一瞬に過ぎないのだから。

だけど、今無理して回復が遅くなることだけは避けなければ。

京夜様にこれ以上、心配を掛けてはいけない。


優しく私の髪を梳く彼。

照れ隠しなのか、全く視線は交わらないけど……、

それでも、大事にされていることは伝わってくる。

これ以上ないほどに倖せを噛みしめながら、私はお気に入りの映画を観始めた。





穏やかな海原に漂うボートに乗っているかのようで。

とても心地よい揺れに身を委ねていると、

不意に爽やかなミントの香りが掠め、

夢と現実が入り混じった不思議な感じで。


心地よい感覚に浸っていると、お気に入りのフレグランスの香りに包まれた気がした。

夢から覚めるように微睡む瞼の隙間から僅かな光を感じた。

すると、優しい手つきで髪が撫でられた。


「おやすみ」


低いテールボイスはあの人の声。

その声音はとても優しく、ついつい再び夢の世界へと誘われて行きそうな……。

そんな誘惑に負けじと立ち向かう自分がいた。


「んッ!?…………悪い、起こしたか?」


声と共に遠のいて行った気配が再び舞い戻って来た。

―――――私が彼の服を掴んだから。


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