オレ様専務を24時間 護衛する Ⅱ
スーッと遠のく彼の気配。
これって、デジャヴ?
思考が働くより早く、反射的に体が反応した。
「どちらへ?」
「ゲストルーム」
「何故です?」
「理由はない」
「嘘です」
「…………」
彼の服を掴んだ指先が震えている。
彼の優しさだって分かってる。
だけど、拒絶された気がして、心が痛い。
馬鹿で愚かでどうしようもない女だって思われてもいい。
今だけは、拒まないで欲しいのに。
「泣くな」
「泣かせたのは、誰ですか」
涙が頬を伝うのが分かる。
人前じゃ泣いた記憶が殆ど無いけど、
何故か、京夜様にはいつも泣き顔を見せてしまっている。
そっと指先で涙を拭いながら、溜息をつく彼。
「悪いが、何もしてやれない」
「そこを何とかお願いします」
「お願いって、…………普通、お願いするような事か?」
「何と言われましても………」
「ったく、頑固な女だな」
「今頃お気付きですか?」
「いや、知ってはいたが、こういう時にも発揮するものか?………普通」
「勝負ごとに、躊躇は死を意味します」
「フッ、俺が断ると言ったら?」
「えっ?」
仁王立ちのように腕を組んで見下ろす彼。
私からは陰になって顔は見えないけど、何となく表情は分かる。
言葉でやり取りをして、やんわりと交わしたいことも。
私はどうしたらいいの?
これ以上、意地を張っても無駄なことも分かってる。
でも、一度出した技は取り消せない。
そんなこと、分かり切っているのに。
最終手段に出たとしても、結果(勝利)が出るとは決まって無いのに。
何を根拠に思い通りに進むと思ったんだろう、私は。
焦らなくたって、いつかは夫婦になる運命なら、
時に身を委ねるのが正解なのだろう。
衝動的に行動してしまったけれど、
今となっては取り返しのつかないことをしてしまったようで、胸が苦しい。
息苦しくなると同時に腹圧がかかり、下腹部が痛む。
歪めた顔を見せたくなくて、顔が隠れるほどすっぽりと掛布団を被り身を縮めた。