オレ様専務を24時間 護衛する Ⅱ
ダイニングテーブルに近づくと、彼女は当たり前のように珈琲と朝刊を置いた。
そして、すぐさまキッチンへと向かおうと踵を返す。
俺は、そんな彼女の腕をそっと掴んだ。
「座って」
「すぐにご用意出来ます」
「いいから、座って」
「もしかして、怒ってらっしゃいます?」
「いや」
彼女に対して怒っている訳じゃない。
不甲斐ない自分に腹が立つだけ。
彼女がこうしてきっちりと家事をこなすのは分かりきっていたことなのに、
何も手立てを講じなかった自分が悪い。
彼女の傷が癒えるまで食事は外で済ませるか、ケータリングを利用しようと思っていた。
マンション内にも早朝から営業しているカフェやベーカリーもあるし、
テイクアウト専門の店もあるため、安易に考えていた。
俺が思っていた以上に、彼女は律儀で完璧な人間だということ。
申し訳なさそうな表情をさせてしまうことすら申し訳ない。
自分の力量の無さにつくづく嫌になる。
「まだ休暇中なんだし、食事の時間は気にしなくていい。俺は希和にゆっくり休んで貰いたい」
「私ならゆっくり休ませて頂いてます。お仕事だって、もう2週間もお休みしてますし。京夜様は休暇中だってお仕事をなさってるじゃないですか。京夜様こそ……」
「俺は経営者だからいいんだ。気にするな」
「ですが……」
「後は何をすればいい?スープを運べばいいのか?」
「え?……あ、大丈夫ですっ」
考えていても何も始まらない。
彼女の負担を減らすと決めたなら、まずは行動を取らないことには。
俺はキッチンへと向かい、スープカップを手にした。
「希和、本当に悪いな。夕方までには戻るから」
「私なら大丈夫です。部屋の片づけでもしてます」
「片づけはいいから、昼寝でもしてろ」
「昼寝ですか?」
「昼寝が嫌なら、日光浴でもしてろ、いいな?」
「あっ、はいはい、分かりました。………お気をつけて」
「ん。…………じゃあ、行って来る」
ヘアピンが留めてある部分にキスを落とし、俺は急な仕事の為、自宅を後にした。