オレ様専務を24時間 護衛する Ⅱ
答えを聞きたくて仕方ないのに、恐怖で今にも心臓が止まりそうだ。
母親は私の手をギュッと握りしめ、医師を真っすぐ見据えた。
「卵巣に異常はありませんので、排卵機能に問題はないでしょう。ただ、子宮の形状が、先ほど申し上げましたように、癒着により正常な形ではありませんので、受精卵が着床したとしても維持するのが困難となります。ですが、着床した場所によっては、妊娠を維持できることもあります。こればかりは、今の状態では妊娠してみないことにはとしか申し上げれないのですが……」
「…………そうですか」
医師は正常な子宮とそうでない私の子宮の形を描きながら、丁寧に説明を続けた。
けれど、その言葉がすんなり頭に入って来ない。
当然と言えば、そうなのかもしれない。
癌の告知をされたわけでもなければ、余命宣告を受けたわけでもない。
だけど、私にとってはこの上なく辛くて……。
相槌を打つ余裕すらない。
母親の呼び掛けも遠くの方で呼ばれているみたいに微かにしか聞こえなくて。
私は医師の指先をじっと見つめ、呆然としていた。
「希和?…………大丈夫?気持ち悪い?」
「…………ん、……………大丈夫」
本当は全然大丈夫なんかじゃない。
発狂して猛ダッシュで逃げ出したいし、今にも吐きそうだ。
だけど、走ったところでどうにもならないし、
大声で叫んだどころで、何も変わらない。
それどころか、私が騒ぎを起こしたら、パパラッチの餌食になるのは目に見えている。
溢れ出す感情を必死に押し殺し、母親の車の後部座席で身を屈めた。
万が一の時の為に。
「マンションがいいの?京夜さんには、お母さんから言ってあげるわよ?」
「ん、大丈夫。…………心配掛けたくないから、マンションにお願い」
「……………分かったわ」
母親の車は病院を後にした。
母親が心配してくれているのは分かる。
だけど、もう子供じゃない。
自分のことは自分で決める。
この先どうするかも含めて。
今は独りになって考えたい。
頭の中も心の中もぐちゃぐちゃで、
取り乱しそうになる感情をセーブするのが精一杯。
今はそれ以外、何も出来なかった。