オレ様専務を24時間 護衛する Ⅱ
15時過ぎに京夜様が帰宅した。
その表情は明らかに暗くて、掛ける言葉が見つからない。
ううん、違う。
京夜様は、私から気休めの言葉が欲しいだなんて思ってない。
むしろ、いつも通りに振舞って貰いたいと思うはず。
私は彼からジャケットを受け取り、ルームシューズを足下にそっと置く。
そうよ、私だって同じだもの。
病院でのやり取りを話したとしても、いつも通りにして欲しい。
やっぱり不自然な振る舞いは、返って傷つくから。
「シャワー浴びて来る」
「はい」
「夕飯作ったか?」
「いえ、まだですけど」
「じゃあ、作らなくていい。サッパリしたものを食べに行こう」
「………はい」
京夜様は自室へと向かいながらネクタイを解き、
器用に片手でYシャツのボタンを外し始めた。
そんな彼の後を追い、彼がバスルームへと消えたのを確認すると、安堵の溜息が漏れ出した。
本当は夕食の準備をほぼ終えている。
真夏日ということもあり、きっとサッパリしたものが食べたいと言うと思って。
だけど、そんなことはどうでもよかった。
彼の前で、いつも通りの自分でいられるか。
それだけが心配だった。
少し明るめのグロスのおかげかもしれない。
彼に悟られずに済んだ。
ジャケットを片付けながら、気を引き締め直す。
今はまだ………。
*********
「久しぶりだったからか、何だか新鮮な感じでした」
「………だな」
1ヵ月ぶりに風月を訪れた。
事前に京夜様が注文して下さっていたようで、
私達が着くなり、涼しげな夏の料理がテーブルを彩った。
しかも、私の体調や好みを考えて下さったようだ。
私の好物の豆腐料理がいつもより多かったように思う。
倖せを噛みしめながら、彼が運転する車の助手席に座ると。
「少し走らせてもいいか?」
「はい、喜んで」
「悪いな」
「何故、謝るのですか?」
「何となく」
京夜様が憂さ晴らしがしたいのだと理解した私はシートベルトをして、笑顔を向ける。
「日も沈みましたし、夜景を観がてら、海風に当たりに行きましょう!……法定速度内で」
「フッ、分かってるって」
私達を乗せた超高級スポーツカーは、首都高湾岸線へと走り出した。