オレ様専務を24時間 護衛する Ⅱ
「京夜様、大丈夫ですか?」
「………あぁ」
どう見ても大丈夫そうには見えない。
ご自身の足でまっすぐ歩くことすら出来ず、
掴まる場所を探しているのか、手を伸ばしている。
そんな彼のふらつく体を支えるように右側に入り込み、
腸骨をしっかりと抱え込むように左手を回すと。
「もうどこにも行くなよ………希和」
いつもの京夜様からは想像も出来ないほど弱弱しい声が。
「こんなに酔われて、明日の仕事は大丈夫なのですか?」
「フッ、当たり前だろ。俺を誰だと思ってる」
「はいはい」
でろんでろんに酔っていても、俺様なスタンスは変わらないのね。
そんな些細なことに感動して、思わず意地悪な質問を投げかけてみた。
「私が急にいなくなったら、………どうします?」
「フフッ、おかしな質問だな」
「分かりませんよ?我儘過ぎるご主人様にお仕えするのが嫌になって、失踪するかもしれませんよ?」
「その時は、アレだ」
「アレ………とは?」
「ありとあらゆる手を使ってでも見つけ出すし、連れ戻す」
「本人が戻りたくないと言ったら?」
「ねじ伏せる」
「どうやって?」
「俺の魅力で」
「え?…………さすが、京夜様ですね」
「当たり前だ。そもそも、俺から逃げれると思うなよ?」
「え?」
「男はな、初恋の相手を一生思い続ける……生き物らしい」
「………へ?はっ、は、つ………恋、なんですか?………私が?」
「ッ?!あ、いや、違う。何ていうか、その例え話のアレだ」
ふらつきながらも部屋へと向かっていた足がピタリと止まった。
そして、俯いたかと思えば、少し骨ばった細長い指先が前髪を掻き乱し、
しばし無言の後、盛大な溜息を吐いた。
「今の会話は忘れろ。………いいな」
「…………はい」
「片づけは明日でいいから、希和も早く休め」
「………はい」
「じゃあ、寝るから」
「はい、お休みなさいませ」
「あぁ、おやすみ」
視線を合わせることなく彼は自室へと向かって行った。
そんな彼の後ろ姿を見つめ、胸の奥がキュッと締め付けられた。