オレ様専務を24時間 護衛する Ⅱ
「なるべく早くに帰って来るから」
「はい」
「無理に家事をしようとしなくていいから、のんびり映画でも観て横になってろ」
「はいはい」
「夜は食べに行くから何も作らなくていいからな?」
「は~い、楽しみに待ってます」
「ん。………じゃあ、行ってくる」
京夜様はお気に入りの場所へと指を伸ばし、満足そうな表情を。
そこには、彼と私とを繋ぐヘアピンが。
私達の間には暗黙の了解があり、彼がヘアピンに指を這わせたら、
私は静かに瞼を閉じて、彼からの愛を享受する。
「いってらっしゃいませ」
「ん」
京夜様は穏やかな表情で扉の向こうに姿を消した。
玄関に爽やかでスパイシーな香りを残して……。
瞼の裏に映る彼の後ろ姿。
大きなストライドで颯爽と歩き、ふわっと彼の残り香が鼻腔を擽る感じが……。
暫く彼の余韻に浸った私は、静かに現実に戻る。
「さて、後片付けしないとね」
気持ちを切り替え、足早にその場を後にした。
朝食の後片付けをして、作り置きのおかずに取り掛かる。
それが終わると、部屋の掃除とベッドメイク。
掃除が終わる頃には乾燥機に入れておいた物が乾き、それを仕分けして片付ける。
以前は出勤前と帰宅後にしていたのだから、
それを考えれば相当楽をさせて貰っている。
世の主婦はそれプラス子育てをしているのだから、本当に偉大だ。
京夜様の部屋の浴室掃除を済ませた私は、ベッドサイドで足が止まった。
ほんの数時間前にそこに彼はいた。
もちろん、私も。
他愛ない会話がほんの数分前の出来事のようで。
考えれば考えるほど、会いたくて。
無意識に自室へと向かっていた。
静寂な室内にギラギラとした夏の日差しが差し込んでいる。
そんな窓辺に立ち、窓からの景色を見渡した。
超高級ラグジュアリーホテルのスイートルームなら、一泊幾らになるだろう。
そう思わせるほど、景色は素晴らしくて。
慌ただしい日常に追われ、あまり堪能出来てなかったことを改めて実感。
「ホント、毎日何して過ごしてたんだろう?………私」
思わず、溜息が零れ出す。
「シャワー浴びないと」
慌ただしく家事をして掻いた汗を流すため、浴室へと向かった。