オレ様専務を24時間 護衛する Ⅱ
14 必然の出会い
希和side
飛行機を降りてターミナル内へ進むと、
独特の香りが鼻腔を擽る。
大きなバックパックを足元に置いて楽しんでいる人もいれば、
夫婦で会話を楽しみながら過ごす人も
それから、スーツ姿の男性がパソコンに向かいながら、
まるで珈琲でも飲むかのようにごく当たり前な感じに口にしている。
さすが、ビール大国。
目の前の光景に海外に来たのだと改めて実感した。
到着口へと向かう人波を避けながら、『Transfer』と書かれた矢印方向へと進む。
乗り継ぎ時間は2時間15分。
時差がある為、腕時計の時間を合わせた。
搭乗口を確認して、時間を潰すためにカフェ店に向かう。
機内食に殆ど手を付けてないが、お腹は空いてない。
というより、食欲がない。
鎮痛剤のお陰で痛みは無いけど、手術痕の患部が攣れてる感じは否めない。
搭乗口付近のカフェは混雑していて、とてもその中へと行きたいとは思えなかった。
日本と違い、自分を知っている人はいないから
混雑している所でも気にせず行けるのだが、
とても気分的に、体力的にも並べる自信がなかった。
フラフラと歩き進めると、お国柄のものを発見した。
珈琲や紅茶が2ユーロで買える自動販売機。
しかも、本格的ドリップのドリンクなのは有難い。
操作も簡単なようで、誰とも会話したくない今は本当に有難い。
お金を入れてカフェラテを選び、待つこと20秒。
身も心も温めてくれる1杯の珈琲を手にすることが出来た。
指先から伝わる温かさ。
機内で冷えた体に優しく、心がそわそわする香りが鼻腔を擽った。
搭乗口前の椅子に腰かけ、カフェラテに口を付けた。
すると、温かい雫が頬を伝う。
あの人が淹れて下さった珈琲を思い出してしまった。
「本当にこれでよかったのかな………」
思わず心の声が漏れ出し、動揺する。
周りの人に泣いてる姿を見られたくなくて、慌てて帽子を目深に被った。
声を出さずに泣くことが、これほどまでに辛いだなんて知らなかった。
抑え込んでいた感情が堰を切ったように溢れ出す。
さすがに周りに気づかれると思い、トイレに駆け込もうと腰を上げようとした、その時。
パサッと柔らかいものが降って来た。
そして、優しく背中を撫でられる。
「It's okay.」
どこの誰だか分からないけれど、有難かった。