オレ様専務を24時間 護衛する Ⅱ
すっかりお気に入りと化した桟橋に辿り着いた私は、
桟橋の端に腰掛け、豪快に横たわった。
真夏だけど、日本よりかなり北緯に位置しているためとても涼しく感じられる。
勿論、湖畔という事もあるだろうけど、
日本の夏の代名詞でもある蝉の煩さが無いように思う。
高い木々が無いからかもしれないけれど、
真夏のギラギラとした日差しも無いし、夢の世界の中に迷い込んだようで。
だからなのか、清々しくて。
どんよりとした胸の奥が、ほんの少し和らぐ気がする。
時より吹く風が、日本の熱風のような鬱陶しさも無く。
鳥の囀りや風に揺れる葉音を聴きながら、
私は現実から逃避するかのように瞼をそっと閉じた。
どれほどの時をそうしていたのか分からない。
エイミー宅の周辺は、広大な私有地なのかもしれない。
実際、大通りから随分と入り組んだ場所にある。
だからなのかもしれない。
家から桟橋へと向か道中、誰とも出くわしたことが一度も無い。
ちょっとした贅沢感にも浸りながら、瞼を押し上げると。
太陽の位置がだいぶ移動している事に気付く。
すると、不意に涙が滲み出す。
意識を他に向けようとするが、どうにもならない。
だって………。
意識して見ないようにしていた。
気にし始めたら、堰を切ってしまいそうで。
でも、考えないようにすればするほど、胸が苦しくなる。
あれだけ、二度と……と誓ったはずなのに。
ゆっくりと太陽にかざした左手。
指の隙間から太陽の光が漏れる。
だけど、そこにはあるべきものが無い。
どんなことがあっても、二度と外すまいと誓ったものが……ない。