オレ様専務を24時間 護衛する Ⅱ


日本を離れる前の荷造りでふと視線に留まった、京夜様自ら嵌めて下さった婚約指輪。

私には身に余るほどの代物で、世界に二つとないとても貴重な品。

その指輪を撫でると、出入国の際の税関申告が脳裏を過った。


どこにでもいるようなラフな格好なのに、

不釣り合いな高価な指輪を所持していたら、きっと怪しまれる。

指輪だけじゃない。

毎日愛用しているヘアピンだってそうだ。

大粒のブルーダイヤが幾つもあしらわれていれば、

宝飾品に詳しくない私だって分かる、とても高価だって。

海外で身に付ければ、すぐさま事件に巻き込まれそうで。

悩んだ末、手元には置いておけないと…。



だから、今の私には何も無い。

彼と私を繋ぐようなものが。



もう二度と戻れないかもしれないあの場所。

それも覚悟の上でこの地に来た。

本当の自分と向き合うため、

1人にならないといけないと思ったから。




もしかしたら、エイミーは気を利かせてくれているのかもしれない。

こうして、私に1人でいられる時間を与えるために。



有難さと虚しさと色々な感情が入り混じって、とめどない涙が溢れ出した。


*********


エイミーの家に来て既に10日が過ぎようとしている。

そろそろ、前に進まないと。

これ以上、ここにはいられない。


決心した私は、就寝前に荷物の整理をしようとキャリーケースを開けた、次の瞬間。

タオルの間から飛び出した物が、カタッと音を立てて足元に落ちた。


「あっ……」


勢いよく開けたのがいけなかった。

キャリーケースの縁に当たり、ひび割れてしまったフォトフレーム。

衣装合わせの際に盗み撮りした京夜様のタキシード姿。

寂しくなったら拝もうと忍ばせて来たが、まだ一度も見ていない。

一度でも見てしまったら、恐怖と不安に押し潰されそうで怖かった。


亀裂が入ったフォトフレームが、私達の運命を表しているようで胸が苦しい。

もう、私には必要ないというお告げなのかもと思えて。

涙で滲む視界の中、フォトフレームから中の写真を取り出した、次の瞬間。

心臓が止まるかと思った。


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