オレ様専務を24時間 護衛する Ⅱ


彼女が元気ならそれでいいじゃないか。

後遺症に苦しんで俺のそばから離れた彼女が、前向きに歩き出せているなら。

ただ、それが俺の隣で出来るのなら、それに越したことないが。

そんなわがままを言える立場にない。

少しでも彼女の痛みが消えるのであれば、俺に何かを言う権利はないのだから。


何故か無意識に茂みに姿を隠してしまった。

後ろめたさがあるわけじゃないが、心のどこかで何となく分かっていたような。


俺の元を離れて1ケ月も経っているという事は、

少なくとも、毎日逢えなくても平気だという事だろう。

俺は逢いたくて逢いたくて気が狂いそうだというのに。


いけないと分かりながらも二人を暫し見続けていた。

男は彼女に対してとても優しい素振りを見せるも、

彼女は一定の距離を保っているようにも見える。

そう思いたいだけかもしれないが、

幾度となく会釈したり、時折お辞儀をする素振りを見せているのを見ると、

男女の関係ではないのだろうと思う。


どういう関係性なのかは分からない。

けれど、彼女が拒絶しているのでなければ、安堵すべきなのだろう。

負傷しているとはいえ、彼女は有段者だ。

そこら辺にいる男など、相手にならないだろうから。


調査報告書にあった『友人』関係なのかもしれない。

俺の知らない彼女の一面に触れ、心の奥が少し痛む。


けれど、現実を受け止める為にここへ来た。

彼女の今を自分の目で見る為に。



遠目だが、顔色もだいぶ良くなった気がする。

何より、彼女の笑顔を久しぶりに見た。

作り笑いじゃなくて、心から楽しんでいる時の笑顔を。

それを見た俺は、漸く納得出来た気がした。


彼女が元気で過ごせているのならそれでいい。

俺じゃなくても、誰かに寄り添って貰いながら

新しい人生を歩み始めているという事が嬉しくて。


報告書の内容が内容だっただけに、最悪の事も考えていたから。

生きる希望を失って、自暴自棄になってるんじゃないかと思っていた分、

あんなにも生き生きとした表情を見れたのだから、納得するしかない。


心に大きく空いた穴を埋める事が出来なくても……。


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