オレ様専務を24時間 護衛する Ⅱ


すっかり仕事漬けの日々を送っているが、

彼女の事を忘れたわけじゃないし、吹っ切れたわけじゃない。

心の奥底にそっと仕舞い込んだだけ。


初めて好きという感情を抱いた人。

初めて女性だと意識した人。

初めて本当の俺を理解してくれた人。


言葉に出来ないほどの想いが溢れてしまうため

考えるという事を放棄しただけ。


けれど、メディアはそんな俺の気持ちなど知る由もなく。

彼女の姿が見えないのは破局したからだとか、

実は別の女性との関係を隠すためのカモフラージュだとか、

本当に言いたい事言いやがって……。


そんなでたらめなゴシップ記事を鵜呑みにした輩が

次々とコンタクトを取ろうとしてくる始末で。

どこで俺の連絡先を入手したのか知らないが、頻繁に連絡が来る。


そんな日常からほんの少しでも離れる事が出来るのが有難い。

社屋を後にした俺は、愛車を颯爽と走らせていた。



左手にレインボーブリッジが見えたかと思えば、

東京モノレールと並走する感じで首都高速1号羽田線を軽快に進む。


平日の日中は輸送トラックが多く、視界が悪い。

昔の俺なら縫うように進んでいた。

けれど、『安全第一』が口癖だった彼女の影響もあり、

今では苛々することもだいぶ減った。

社内では丸くなったと噂されているようだが、

そういうことすら気にならなくなった。


どうでもいいという訳でなく、

誰からも慕われ頼りにされるような人格者でありたいと思うように。

以前の俺なら考えもしなかった。

部下なのだから、付いてきて当然だと。

だが、その考えは自己満足であり、暴君と同じだと。


彼女の『上に立つ以上、尊敬されるべき人であり続ける』という信念が俺を変えたのかもしれない。

競技をする上で、自分に勝った相手には尊敬の念を抱くと言っていた。

体力や技術だけでなく、精神力が勝ったから自分に勝ったのだと。


だから、ものの見方が少しずつ変化したのかもしれない……。


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