未来を変える殺し屋
「私は占い師だ」


扉を開けるなり男が言った。


自宅の玄関だった。


築二十年以上経ったアパートの二階に俺の自宅はある。


目の前の男は、とても占い師には見えなかった。


ずいぶんとクリーニングに出していないのであろう、よれよれの黒いスーツ。


泥はねがひどく、白っぽくなった黒い革靴。


年は四十代前半といったところだろうか。


無機質な表情で、この間にも煙草を吸い続けていた。


「占い師?」


俺は首を捻りながら尋ねた。


なぜ突然占い師が訪ねてくるのかわからなかった。


初めて会う人物であったし、訪問占い師なんてのも聞いたことがない。


「私は君の未来を変えるためにきた」


と男が真っ直ぐに俺の目を見て言う。


細い目からは、いくらも表情が読み取れない。


「別に変えてもらわなくていいんで」


“未来を変える”というキャッチフレーズには少し惹かれたが、占いには興味がなかった。


大体、占い師が運命を変えるというのも解せない。
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