リライト

一樹がプロポーズしてくれたのは先月。
私たちが付き合い始めて、二年目の記念日だった。



一樹も私も来年には三十歳になるからいいタイミングだけど、私はすぐに返事できなかった。戸惑う私にもう一度、優しい声で一樹は気持ちをぶつけてくれた。
一樹は私を支えてくれた大切な人。



あの事故から四年。
失くしたものは、まだ取り戻せない。



四年前、駅に直結するビルの一階エントランスに車が突っ込んだ。仕事を終えて帰宅途中の私は、エントランスに居て事故に巻き込まれた。一階の店舗が大破して、吹き飛ばされた陳列棚が私を直撃した。



と言っても、私は何にも覚えていない。
目が覚めた時は病院のベッドの上で、記憶も仕事も全てを失くしていた。やがて怪我は治ったけど記憶だけは戻らない。



二年前、再び働き始めた職場で一樹と出会った。一樹は私を受け入れて、いつも優しくリードしてくれる。



だけど、未だに胸の痛みは消えない。





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