俺様魔王の甘い口づけ
夢を見た。
小さな子供が暗い部屋の中に蹲っている。
泣いているの?
私がそう声をかけると、その少年は顔を上げた。
でもそれは、私が声をかけたからじゃなかった。
その先に、誰かが立っていたのだ。
少年は闇のように黒い髪と瞳。
子どもなのに均整のとれた顔つき。
それにはどこか見覚えがあった。
―優しさなど捨てるのだ。お前は魔王になるのだぞ
低く地面をはうような声。
重感のあるその声は、淡々と言い聞かせるように。
―魔王とは残酷であれ。それが、魔王になる者の理だ
ああ、それは聞いたことがある。
ハンスが言っていたのだったっけ?
そんなものなくしてしまえばいいのに。
―はい、父上…
少年が、揺れる瞳でそう言った。
幼気な少年。
その心に汚れなどなかった。
心優しい顔つきで、心を揺らしていた。