俺様魔王の甘い口づけ



「それにしても、よく来たねぇ」

「え?」

「この村は、森に近いだろう?なかなか人が寄り付かなくてね」

「…魔物がいるからですか?」




店主のおばさんは困ったように笑って頷いた。
確かに、魔物に浚われることを怯えて暮らすのは誰だっていやだろう。




「とてもいい村なんだ。だから、離れられない人も多いのさ」

「そうですか…」

「魔王も酷いもんだ。魔物を使って人を浚い、その血を吸い尽くしてしまうなんてね」




魔物を使って…?
でも、それは違う。
だって、あれは魔物が献上物だと連れてきていたもので、別にルイが命令していたわけじゃないようだった。




「まったく、恐ろしいよ。魔王だって、冷酷でとても恐ろしい化け物なんだろう?」

「化け物…」

「いや、見た人はいないんだけどねえ。殻が大きく、化け物のようだと噂されているんだよ」




おばさんが伝える魔王の風貌は、私の知っているルイのそれとはかけ離れている。
皆、魔王の姿を見た人はいないんだ。
そうか、魔王にあって生きて戻った人はいないんだから…。




「でも、最近殺されずに戻ってきた者がいるって噂もあるんだよ」

「そうなんですか…?」

「ひどく怯えちまって、なにも話さないようだけどねぇ。かわいそうなもんだよ」




胸が痛い。
生きて戻ってきても、傷ついた心は簡単には癒えない。




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