俺様魔王の甘い口づけ


ここのお風呂は初めてだ。
前の時には、誰かが私の血をふき取り着替えもさせられていたから。

ふと思ったけど、もしかしてそれってハンスだったんだろうか。
私は、メイドさんとかがいるものだと思ってたけど、ここにはハンスとリオンしかいないと言っていた。
とういうことは……。



そういう考えに思い立った私は、口をパクパクさせハンスに抗議しようとしたけど、冷静に交わされるのが目に見えていたし、抗議する気力もないと諦めた。




「こちらでございます。中の物はお好きにお使いください。その汚れた服は後で私にお預けください」

「…ありがとう」




私はあまりハンスの顔を見ないように通り過ぎると中に入る。
脱衣所で汚れた制服を脱ぐ。
お風呂の中にはいると、それはまるでリゾートのような光景が広がっていた。
広すぎる湯船に、趣味の悪い像が立っていたり、お決まりのようにライオンの口からお湯が出ている。

こんな状況じゃなければ、きっとはしゃぎたくなるほどの豪華なお風呂だろう。




「ひどい顔」




鏡の前に座り見つめた自分の顔。
血が乾きパリパリになっている。
そして下がった眉に、不安に揺れる瞳。




それを洗い流すようにシャワーを手にすると頭からお湯で流し落とした。




お湯につかれば、少しは気持ちがホッとする。
自分が置かれた状況に悲観するだけの私。
それじゃあ、ダメだと改めて思う。


もし本当に、この世界で生きていかなければいけないなら、うまく立ち回れるようにならないと。
いちいち傷ついていたら、身が持たないのだ。
でも、あんなことに慣れたくない。
慣れたくないし、それを肯定したくもない。
仕方ないなんて、思えないだろう。




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