俺様魔王の甘い口づけ
「ルイさまが、他人とましてや人間と言葉を交わすことなど、本当にありえなかったことなのです。ここ数十年、そんな姿を目にしたことはありませんから」
「…へえ」
ハンスは切なく笑った。
その表情は何かを思い返すように揺れる瞳。
「ですから、芽衣子さまが来られて、私は嬉しいのですよ」
表情をパッと変え、明るく笑ったハンス。
嬉しいと言われても、私は嬉しくない。
正直、帰りたい願望が消えたわけじゃない。
ルイだって、血を吸わないわけじゃない。
頻度の問題で、そうなのかと納得できるわけじゃない。
「ルイさまの孤独が少しでも…」
ハンスは願うように手をお腹あたりで組む。
その心を私が知ることはできない。
でも、あまり私に期待されるのも、困ったものだ。
私にはそんな力なんてないのだから。
「では、芽衣子さま。私は仕事に戻ります」
「あ、うん。頑張って」
「はい。では」
ハンスは笑顔で頭を下げ部屋を出て行った。